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金融危機とCDS(2008年11月22日)
株式市場の仕組みを理解する為には、金融の仕組みを理解せねばなりません。
しかし…金融の世界は既に金融工学と呼ばれる高度の数学を用いた世界の話です。ヘッジファンドは様々な商品の組み合わせを過去の値動きから弾き出した数字で計算されていますから、突然、起こる不慮の事態は考慮されていません。サブプライム問題から発覚した金融デリバティブの投資銀行業務が、今の市場の焦点になっており、国際金融が揺れているので株価が下がっているわけです。金融と実体経済は結び付いており、金融が確りすれば景気は良くなります。ところが今回は実態景気が過熱したというより、金融が先走った印象ですね。金融部門が過剰な利益を求めたから、実体経済が悲鳴をあげたのが商品市場の高騰です。ガソリンの高騰は先進国の日本でも大変なのですから、当然、実体経済は金融経済の要求に応えられません。
今頃、分析が出来ても後の祭りですが…
今日はその仕組みを説くための下準備として、CDSと言う金融商品の解説をします。
残念ながら実態は陰に隠れており、その取引に携わる証券マンも、本質を理解しているかどうか…。私自身、新聞程度の知識ですから真実かどうか分かりません。それをご承知の上でお読み下さい。これから述べるのは「未来かたる」が理解しているレベルの話です。本当かどうか分かりませんので、情報の扱いにはくれぐれも注意されるようにお願いします。
先ず、株式市場の動きを御覧下さい。
NY市場の長期波動のチャートです。アメリカの経済運営は素晴らしいの一言です。日本は1989年以降、冬眠したままですが…米国は経済成長を続けています。(この話も面白いのですが今日は視点が違うので…)御覧頂いて分かりますが2005年後半を境に出来高が急増し、大きな転換は始まったことが分かります。日本も同じ動きでした。
今、問題にされているのが2005年後半からの金融の動きです。金融界は成功報酬制度の為に、伸び悩む業績を押し上げることが圧力になり、金融デリバティブ商品がどんどん開発されます。問題が明らかになるのが2007年の4月のニューセンチュリーの破綻です。1995年に設立されサブプライムローンを中心に取り扱い急成長しました。その後、同年6月にベアスターンズの子会社のヘッジファンドへ疑いが向けられ、7月にムーディーズがサブプライムローンを組み込んだ住宅ローン担保証券(RMBS)の格付けを引き下げます。そうして翌年3月にJPモルガンはベアを救済合併します。ここでサブプライム問題は終焉を迎えます。
次にケースシラー住宅価格指数とサブプライムローンの動きを見てください。住宅価格は2000年ごろから上がり始めました。ITバブル崩壊の後、過剰な低金利政策が資産インフレに繋がった構図です。加えてサブプライムローンの急増は2003年から2004年に掛けて急増します。まるで日本のバブル崩壊の1989年の構図と同じです。値上がりが続く土地価格をみて投資が膨らみ過剰投資になっています。株式市場は2002年から2003年にかけて底を打ちます。そうして上昇を続けますが…、この資産インフレを支えたのが日本の低金利や金融デリバティブの力です。サブプライムローンの金利上昇による借り換えのピークは今年の春に終りました。ベアスターンズの救済で幕かと思ったのですが第二段が始まりました。リーマンの倒産ですね。今度の焦点はサブプライムからCDSを組み込んだCDOです。
日本のバブルと違うのが、米国の危機発覚後の対応です。果敢に利下げを実施し市場経済の要求に応えようとしていますが、シティーの下げを見ると、今の政策対応では足りないのでしょうね。金融サミット前のポールソンの発言から、株式市場は再び下げを加速させています。深刻なのは米国より欧州といわれています。欧州の対応は鈍く利下げが不十分なのです。ドイツ銀行をはじめ米国の金融より悪い状態だと言われています。この辺までは、今までのおさらいの話しです。
さてサブプライム問題の残高は少なくなり問題ないのでしょうが、深刻なのがCDSと言う商品への対応なのでしょう。ベアスターンズ以後の株式市場の動きを見ればサブプライムの対応は市場に織り込んだのでしょうが、CDSの方が不十分なのでしょう。
金融サミットでは三つの対策が考えられ行動に移されています。CDSを組成したCDOの格付けの問題が指摘され格付け機関の登録制。そうしてCDSの売買が相対売買であり実態が見えにくいので、透明性を高める為に取引所への売買移管。最後に過度の投資を防ぐ為に国際決済銀行への監視の強化です。今回の株価下落の問題の焦点はここにあります。
さて、前置きが長くなりました。CDSとは何か?
CDSは分かりやすく解説すれば、貸出債権の保険です。三菱銀行が三菱商事に1000億円に金利5%で5年間お金を貸します。この貸出債権を元にしたCDSを買う事により銀行はリスク資産が減りますから、自己資本比率を下げることなく貸し出しが続けられます。その代わり保証料を銀行は払います。その金利がCDSの買った時の価格になります。
例えば三菱銀行は1000億円の貸出債権を500億円分だけ減らしたいと言うニーズが発生したとします。この500億円の貸出債権を元に、モルガンスタンレーがCDSを500億円分作ります。モルガンスタンレー(MS)は三菱銀行にCDSを150と言う価格で買ってもらいます。この行為により500億円分の貸出債権の償還リスクがMS側に移ります。三菱商事が倒産して三菱銀行への利払いが停止したら、代わりにMSに支払い義務が生じます。その代わり三菱銀行はMSに保証料を払います。つまり保証料金が1.5%と言うことです。1.5%の金利(500×1.5%)7億5千万円を三菱銀行は毎年MSに払います。つまり売り手はCDSを売れば売るだけ金利が無料でもらえます。ただし保証した企業が倒産しなければ…このCDSを組み合わせた商品がCDOです。
ところがモルガンスタンレーは自分だけでリスクを抱えるのは危ないのでAIGに同じ貸出債権を元にCDSを販売する契約を結びます。300億円分AIGが売り手となって買うのです。ここでMSは賢く0.1%程度鞘を抜くかもしれません。つまり140でAIGと契約を結びます。自分の所は200億円分の損失を被りますが、300億円分はAIGが保証してくれます。今度はAIGが他の事業会社相手に同じような契約を結び、どんどんCDSの想定元本は雪だるま式に増えます。元は500億円でしたが5000億円にも1兆円にも拡大します。先日のリーマンの場合はおよそ70倍のレバレッジでした。
つまり想定元本が54兆ドル(5400兆円)と言っても、7千億ドル(70兆円)程度の話なのでしょう。マスコミは想定元本ばかりを強調するから大変だと思うわけです。
恥ずかしい話しですが、私も最初にこの話しを聞いた時は大変だと思いました。
実態がこんなに単純なら良いのですが…。CDSを組み込んだCDOは200とか300と言う企業の寄せ集めでリスクが隠されています。誰しもダビンチのような新興企業の借金を保証する人は居ませんからね。ところが200とか300の内の1社か2社ならリスクが見えにくくなり、しかも契約が一流企業ばかりの債券で10社倒産したら保証するとか言う契約なら、当然、安心感を覚えますね。更にこのCDOに、ムーディーズやS&PのトリプルAのお墨付きが付いているとすれば…どうでしょう? あのムーディーズです。2002年5月に日本国債をAa3からA2に引き下げた会社です。金融商品はどんどん増えるし、格付け機関はお墨付きを与えるだけで保証はしませんが格付け料金が入ります。その紙くずの評価にお金が支払われるのです。私が株は安いと言っても誰も信用しませんが、ムーディーズなら騙されても文句を言う人は居ません。かくしてどんどん新しい商品はゆきだるま式に増え続け金融経済が膨らみました。故に商品価格は過剰に押し上げられ悲鳴をあげて金融経済を実体経済が否定したのが今回の騒動でしょう。
だいたい他の商品も同じような理屈です。サブプライムローンを元にした市場評価のABX指数など色んなものが存在しますが、ご理解いただけましたでしょうか?
問題はCDSと言う価格の算定にあたって、今のような金融リスクが生じることを想定してないのです。だから異常に警戒心が増してCDSの価格が跳ね上がります。アイフルの2640と言う数字は本当なのでしょうかね? 5億円を出して売り手になれば、毎年1億32百万円もらえるのです。本当に売買があるのかどうか…。細分化する商売が儲かりそうですね。個人でも50万や100万なら買う人が居るでしょう。いいヒントですね。CDSの価格が下がり商売になります。個人向けのCDOを作れば良いのです。もう少し単純化して10社のCDSをまとめて倒産しても元本が残るような設計が出来るのじゃないかな? 野村證券はチャンスですね。リーマンを抱えているし、金融は混乱していますから…問題はその仕事を出来る度量の役員が居るかどうか…また金融庁が許可を出すかどうか…未知数ですが魅力的な商品です。
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