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希望と見える手(2014年08月30日)

今日は経済の基礎知識を解説しようと考えています。カタルは「信用創造の復活」と言う相場のテーマが、日本経済の再生には、不可欠だと述べています。その論理的な解説です。最近はアダム・スミスが登場したり、名目GDPと実質GDPの話が出たり、日本化現象、流動性の罠など、様々な経済用語が「今日の市況」に並んでいますが…基本的な知識が確立されてないと、何故、カタルが、ケネディクスを薦めているか? 理解できないのですね。どうもメールを見ていると、おそらく…経済的な知識が必要と思われるから、今日の原稿になりました。カタルも経済学者ではありませんし、証券マンを続ける傍ら、新聞などを読んで、齧った程度の知識で、正しいかどうか分かりませんが、分かりやすく解説するつもりです。

最近、話題になっているのが、アダム・スミスの「見えざる手」の話しです。1790年に彼は亡くなっていますから、かなり古いスコットランド(イギリス)の経済学者ですね。彼の名前ぐらいは、聞いたことがあるでしょう。「国富論」を書いた人です。彼は、この中で、「市場経済において、各個人が、自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される」と述べています。つまり社会全体の利益となる望ましい状況が「『見えざる手』により達成される」と考えた訳です。先日、黒田日銀総裁は、米ワイオミング州のジャクソンホールで開かれた年次経済シンポジウムで講演をされ、その中で「見えざる手に代わる『見える手』が必要だ」と述べたと言います。

この事は「日本化現象」が広がる欧米にも当て嵌まりますが、企業が豊富なキャッシュポジションがあるにもかかわらず、積極的な投資活動がなかなか起きないことへの対処を示します。通常は、低金利になれば必要経費のハードルが低くなり、収益が得やすくなりますから、投資活動が活発化するのですが、なかなか銀行融資額が増えません。所謂、「流動性の罠」と言う、金融緩和を実施しても、貸し出しが伸びない状態が生まれています。だから、自然に任せるアダム・スミスの「見えざる手」だけでは、なかなか積極的な活動が生まれないので、強制的に「見える手」の政策が、必要だと言うのです。異次元緩和は、その第一弾ですね。実は、黒田さんの前の総裁時代に、白川さんの時代に始まった2010年10月からの包括的金融政策も「見える手」の代表的な金融政策です。ただ規模が小さく、市場にインパクトを与えていません。危険資産のETFやリートを買う日銀の行動は、他国にない積極的な「見える手」政策ですね。

失われた時代を分析すると…、様々な原因が複合的に重なっているのですが、一番の原因は新興国の市場経済への参加ですね。ベルリンの壁が崩壊し、金融デリバティブが発達してリスクが取れるようになったので、中国を代表とする低所得の労働力が、一気に市場経済に流れ…物価の水準訂正が起りました。日本はそれまで独自基準を設けており、一気に市場経済化へ突き落されたので、対応が後手に回り「失われた時代」が長引いたのですね。この現象は何も、日本だけでなく欧米でも起っています。日本は中国の影響を、欧州は東欧の影響を…米国はメキシコをはじめとする中南米の影響を受けています。ただ米国は早くから経済開放し、更にシェールガスの効果もあるので、一番、打撃が少ないのです。日本は、独自の村基準を掲げていたので、一番、打撃が大きいですね。これが「日本化現象」です。所謂、失われた時代の現象(空洞化)ですね。

世界のディスインフレと言うか…、デフレモードの根本原因は、新興国の所得上昇まで消えませんね。ようやく中国の労働者所得も、日本と大差がなくなり始めています。不動産価格などは、既に、東京より上海の方が、高い程です。最近はベトナム、そうして間もなくミャンマーなどにも生産基地移転は、広がるのでしょう。だから当面は、いくら金融緩和を実施しても…なかなかインフレになりません。人口の多いインドの影響が、これからどうなるか…注目点ですね。

さて、ここまでは前座です。いよいよ信用創造の復活に関わる名目GDPと実質GDPの話に移ります。人間と言うのは、未来の夢に向かって生きる動物です。それでは、人間の希望は、何から生まれるのでしょう。「アメリカン・ドリーム」は良い響きですね。頑張れば、やがて、僕らも豊かになれる。この幻想をと言うか、希望を国民に植え付けないとなりません。「今を我慢すれば、だんだん僕らの暮らしは、良くなるんだ」と言う希望です。失われた時代から抜け出すのは、この希望を、国民に植え付けることが肝要です。そこで登場するのが、名目GDPと実質GDPの差です。僕らは名目の世界で生きているのですね。毎月もらう給料が20万円から19万円に減ったら、物価を勘案して…実質で得していると言われても、ピンときませんね。やはり物価は上がっても、20万円の給料が21万円になった方が、生きる張り合いがあります。

現在、日本は消費者物価2%の上昇をめざし、経済成長は3%を目指しています。これを物価の上昇と賃金に置き換えたグラフが下のものです。年収300万円の人が、生活費が200万円かかり、給料が毎年3%ずつ伸び、物価の上昇は2%としたシミュレーションです。1年や2年では大差は生まれませんが、5年、10年、20年、退職する30年後の姿をみれば、このような経済環境なら希望が生まれますね。頑張れば豊かな生活が生まれる実例です。使える可処分所得は、どんどん増えていきます。10年経つと、100万円の可処分所得が、僅か1%の違いで、10年後は100万から152万と…5割も増えるのです。30年後には、生活費に必要な額と肩を並べますね。これが、名目成長率が実質成長率を上回っている実例です。我々は努力で、物価上昇を上回る成長を遂げることが出来るのですね。余談ですが、売上ではなくROEの考え方の重要性が分かります。

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ところが、実際の名目成長率と実質成長率の差を下のグラフで感じてください。(1995年からは新基準が採用されています。)どうでしょう。1990年代後半から、名目と実質の逆転現象が生まれています。完全なデフレモードですね。今日より明日が悪くなる希望が失われた時代です。だから三菱銀行に勤めていた池井戸君が、作家に転向し「倍返しだ!」の本が、生まれる訳です。後ろ向きの不良債権処理に嫌気がさし、優秀な若者はぞくぞくと日本企業を離れ、名目成長率が高い中国に向かいました。このGDPデフレーターが生まれた背景が資産価格の下落ですね。

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不動産投資会社のダヴィンチが誕生した1997年、山一や長銀が消えた時代ですが…、この時期に日本の割高な資産価格は、収益還元法価格、所謂、借金を前提に不動産投資をしても、都会では、採算利回りが得られる状態まで、不動産市況は改善されました。金利が5%でも、不動産からの収入が8%程度に回るのです。2003年のみずほが、10万円を割れる株価の時は、不動産への投資利回りは10%を大きく超え、20%、30%に回る物件も、かなりありました。小泉・竹中改革の実像ですね。強引な不良債権処理を進め、UFJ銀行が消えました。利回りに合おうが、どうしようが…、赤字企業には融資を認めない金融庁の検査方針が長く続きます。カタルが批判している部分です。しかし現状は改善され始めているようです。

最近の大型M&Aや、森ビルが目黒の雅叙園を落札したのをみれば、日本の金融界の現状が見えますね。おそらく金融庁は、かなり態度を変えたのでしょう。ようやく…日本も夜明けを迎えていますね。1000億円以上の資産投資が認められるように、我が国の金融界も、ようやく体力がついてきたのです。此処が非常に重要なポイントです。森ビルが買うのではないのです。背景は、メインのみずほ銀行が買うのと同じ意味を持ちます。ケネディクスのノンリコース(担保物件を渡せば返済義務はない)が増えたのも、銀行の体力が回復した状態を示しています。名目と実質GDPの逆転現象も、間もなく改善されますね。(名目と実質の違いは、物価を加味したかどうかの違いです。)

分かりますかね…。もう既に日本経済は立ち上がっているのですが、なかなか実感が生まれないのは、長いデフレ経済下に我々が慣れている為に…マインドコントロールが遅れているのです。失われた時代の後遺症が残っているのでしょう。しかしソフトバンクの孫氏は、個人の資金で銀座のティファニービルを買ったように…、間違いなく資産価格は上昇を続け、一気に、この動きは広がりますね。それが先日、報道された東京駅脇のPCPビルの売却や、目白の雅叙園の売却などの現象となって、一気に広がり始めているのです。国債金利利回りが0.5%を割れたのは、一層、資金移動が加速的に促されているのですね。

物価上昇率を上回る経済成長(賃金の上昇)が、人間に希望を与えるのです。そうすると人間は積極的になり、行動が活発化します。やがて…スマート・コミュニティーへの投資が大きく増え始めますね。分かりますかね。何故、カタルが、何度も、先ずは信用創造機能の復活であり、次は投資のスマート・コミュニティー関連の株式に注目しているか?

先ずは「1300兆円の逆襲」であり、それからユビキタス時代への対応やクラウド環境への投資が進むのですね。確かに現状は、消費増税の反動減が長引き、デフレマインドが復活しそうな雲行きですが…。黒田総裁は、講演で「見える手」政策を話しているのです。日銀は、何だってできるのですよ。だからラスト・リゾートと呼ばれているのですね。楽園なんて…素敵に響きですね。

正常な株式相場は、悪化する指標をみると…政策期待が先行し政策発動がなくても、株価を押し上げるものです。実際の政策発動がなされなくても、株価が政策期待で上がることにより、景気マインドがコントロールされるのですね。米国はそうです。間もなく日本も正常な形に、変化するのでしょう。ほら、やっぱり…ね。今、日銀のホームページに飛び、ETFの買い入れ状況をみれば、「見える手」政策は、確実に実行されていますね。8/28、8/29日に156億円ずつ、日銀によりETFが買入れされています。このような行動が、積み重なることで、市場と日銀との心理ギャプの差が消えて、徐々に相互の信頼関係が築かれて行くのです。