詩と真実・・・

マーケット三国志

「こぶ」(いちば)(2005年12月12日)

江戸を描かせては第一人者の山本一力氏に「端午の豆腐」という絶品があります。
雑穀問屋の丹後屋が発注を間違えて普段は50俵しか仕入れない大豆を500俵仕入れてしまいました。
その始末を、正月2日の初荷の日に「招福大豆」と称して富岡八幡宮で販売し、すべてを売り払います。
でも、あまりに儲かり過ぎたので5月12日を豆腐の日として、5万個の豆腐を振舞うことにする、という話です。
講談社文庫から出たばかりの「深川黄表紙掛け取帖」の中の一話。
ジェイコム問題の発生はあまりにタイミングが良すぎました。

東証の問題も発注ミス。
それも10倍どころか62万倍というケタ違いです。
「解け合い」という古典的な言葉まで持ち出されてきました。
株式市場がゲキタク商いを行い、「清算取引」といっていた頃の言葉です。
受け渡しが出来ないというのは、最近では商品先物でしか見かけなくなりましたが久々にお目にかかりました。
これも歴史への遭遇に他なりません。

ジェイコム事件発生の日の夕刻。
空気が透徹した黄昏の兜町で高名な元歩合外務員氏とお会いしました。
清水一行氏の「小説兜町」に出てくる山鹿悌司のような雰囲気。
落ち着いて冷静沈着なイメージでダンディでした。
「森下までに馬刺しを食べにいきましょう」とのお誘い。
池波正太郎氏の随筆に出てくる「株屋の吉野さん」の口調を髣髴とさせるイメージ。
綿々と続く東京株式市場の証人です。
ジェイコム事件に関して一言。
「愚かですね」。
そして「注文に愛情がないから、こんなことが起こるんです」。
重い言葉でした。

今の相場を「プリンちゃん相場」という人もいます。
競馬予想の「プリンちゃん」は、予想紙に手を置いて予想します。
それが結構当たるので、「ブロードキャスター」などに出演していました。
今はダートのように銘柄を選べば上昇。
だから「プリンちゃん相場」というそうです

ある伝説的現役トレーダーは明解に指摘しました。
「ストップ・ロスです」。
ジェイコムは品薄からのストップロス。
市場は、ネガマインドの裏返し。
この上げは15年間のお仕置きなのでしょうか。

週末、WOWWOWでの志の輔師の独演会を聞きました。
テーマは「こぶ取り爺さんの意図するところは何?」。
良く考えてみると、確かにこぶ取り爺さんに教訓はありません。
何のための話かわからないけれども、有名なんです。

こぶを取った鬼が、今度はこぶを返してくれる。
本当なら、返してもらえるのは嬉しいのだが、返してもらうと困るもの。
それが「こぶ」。
今、東京はこぶを取り返しに出発しました。
それも・・・海を渡って。
でも、 月に1兆円のお金を使ってこぶを取り返しに来る人もいるんです。
あちらこちらに「こぶ」が残されているようです。
もっとも上げ相場では「あばたもえくぼ」。
「こぶ」も大切なことに違いはありません。

ところで・・・。
評論家はしたり顔で言います。
「利食いも大事。大きな下げへの防衛も大事」と。
この言葉に何の根拠もないように見えます。
だったら株式評論などするなと言いたいところですが・・・。
過去の薄い常識が邪魔なんです。
そしてその常識を進化させないところが問題なんです。
だから「玉虫色」か「逃げ」がかならずちりばめられる。
それこそ「レッドカード」。
「来年3月配当取りまでは強い上昇局面」というような明確な発言が望まれます。