アーカイブ:2019年8月10日

ケネディクスを事例にROE解説

昔から注目しているケネディクスの2Qが発表されました。良好な経済環境を踏まえ…順調な業績推移でした。宮島さんは健全な収益を伸ばし、積み上げ型の利益の蓄積を心掛けています。

アセットマネージメントフィーの推移

基本的に…この手の会社は、受託資産残高(AUM)の積み上げが定期収入を増やします。携帯電話会社などの契約人数と思って良いのです。積み上げ型の利益の蓄積ですから、AUMを増やせば…必然的にコアになる利益が増え続けています。この受託資産に対する管理料のようなものを、ケネディクスでは「アセットマネジメントフィー」と呼んでいます。その金額は28億円→40億円→47億円→52億円→59億円と右肩上がりになっています。

でもカタルは、よく本文のレポートで…宮島さんの消極性を批判しています。その様子は同業の「いちごHD」(2337)と比較すると分かります。いちごHDの前期のROEは、四季報によると16.3%です。そうしてケネディクスは13.4%になっています。カタルは良く世界基準の話しており、基本的に上場企業はROEを15%以上にするべきだと述べています。

業界トップのトヨタ自動車は製造業なので、少し形態は違いますが、トヨタのROEは9.8%です。一方、日産自動車は6.0%、ホンダは7.5%です。流石、トヨタです。頑張っていますが、カタルはどちらかと言えば…新時代に対応してないとトヨタ社長も批判しています。次世代型ビジネスへの取り組みが鈍い為です。

今、株価が良く上がっているNECのROEは、なんと4.6%しかないのです。一方、富士通は9.4%です。不思議です。NECの期待値が高いことが窺えます。AI技術を利用した医薬品開発や顔認証などの未来技術が高く評価されています。ROEの話をしていくと…論点がズレルので、この辺に留め話を戻します。

ROEの分解式

何故、ケネディクスと、いちごHDの…ROEは違うのでしょう。基本的にROEの分解式を考えるとその理由が分かります。

ROEの計算は利益を自己資本で割るのですが、収益性である「売上高営業利益」と効率性である「総資産回転率」に、「財務レバレッジ」と呼ばれる借金の組み合わせで成り立っています。この3つのセクターを高めると…ROEは上昇します。現状の不動産環境は好環境が続き、ここ数年は積極的な投資が実を結びました。でも当初は、ケネディクスの宮島さんは不動産の評価損の整理を急ぎ…財務内容の改善に努めました。この経営判断をカタルは批判していました。

時代は…実質時代から名目時代へ動いており、日銀の量的緩和を見るまでもなく…日銀自らが危険資産の「リート」や「株式」を買っているのに、ケネディクスはリスク資産を減らし、財務内容を改善する? まるで逆方向の経営スタンスだったからです。

ケネディクスの借金の中身

事実、ケネディクスの借入金の大半を占めるノンリコースローン(496億円)でも1.61%の金利です。通常のコーポレートローン(194億円)では1.01%の借入金利なのです。この違いは、仮に返済が滞った場合のリスクを銀行が負うか、ケネディクスが負うかの違いです。開発した不動産がドンドン値下がりをした時にお金を返済せずに、担保の物件を渡せば借金がチャラになるか、どうか…の違いです。この0.6%の金利差が「危険手当」と言う訳です。

ケネディクスは、まさかの用心を…し続けている訳です。0.6%の496億円ですから、金額に直すと2億97百万円ですから、約3億円の無駄なお金を、毎年、払い続けています。代わって…2017年にピークだった借入額805億円が、この6月現在で691億円に減っています。

不動産投資のリターン推移

健全度は増していますが、収益を追う力は弱くなっています。でも積極的な不動産投資をすれば…現在の環境は14.7%のリターンが見込まれます。確かに…毎年、不動産投資の利回りは競争が激化して…下がり続けています。2014年が22.4%、2015年が22.6%だったのに、2016年は17.6%、2017年は14.9%で昨年の2018年は14.7%です。

だから健全度をあげている経営の安定感はありますが、いちごなどに比べ積極性を欠いていますからROEの差がついています。自己資本比率でも、この事は分かります。直近の決算データを見て、ケネディクスの純資産は953億円71百万円で総資産(資本と負債御合計)は1753億48百万円ですから自己資本比率は…なんと54.38%もあります。

一方、いちごHDの純資産は1011億18百万円で総資産は3182億20百万円ですから自己資本比率は31.77%です。つまり外部借り入れを増やし…積極的に不動産投資をしている訳です。先ほどのROEのデュポン分解式の財務レバレッジの活用度が違います。

いちごHDのスコットキャロンの時代認識と、ケネディクスの宮島さんの時代認識の違いです。だって借り入れ金利は1%程度で…14%の投資利回りが得られるのですから…借り入れを増やし、投資をした方が利益は増えます。鞘は10%以上もあるのです。1000億円の借り入れで、投資をして100億円が抜ける環境が続いています。

更にカタルが思うには…既存ビルの大改造を押し進め、改修工事や大規模化を謀れば…ドンドンと資産価値は上がります。ケネディクスはグループ内のリートには大量の資産があり、資産等価方式で既存ビルの大規模化が図りやすいのです。

例えば…Aと言うビルのオーナーは収益が増えれば、Bと言うビルのオーナーに変わっても…何にも不合理はありません。しかし…ケネディクスは、Aと言う隣に古くなったビルの建て替えがあるなら…隣も同時に建て替え工事をして、大規模化すれば、新しいビルは更に価値が上がります。

このような経営を繰り返し…リート内にある資産を再構築できます。ケネディクスは豊富な在庫があるから…このようなアイディアがドンドン実現できます。そうして資産の回転率をあげて収益を伸ばせます。この努力だけで、収益は見違えるほど改善するでしょう。

加えてコンセンションにも積極的になるべきだとカタルは述べています。社会資本の再構築は、必要不可欠な分野で、古くなった水道管などを新しいものに変えなくてはなりません。電線の地中化工事もあり…一体化すれば効率的なお金の使い方になります。コンセッションは無限の市場があるのです。でも…このようなアイディアも、すべては経営者の資質によります。

株主還元の推移

でも…ね。宮島さんにも良い所があります。物を言う株主であるヘッジファンドのエリオットに株式を大量に集められてからの対処は…株主還元に厚くなりました。 2016年は59.1%、2017年は61.2%、そうして昨年の2018年は93.8%です。

自社株買いと配当推移

今期予想は継続的な利益50億円に対し…33億円の配当還元と、不動産投資損益89億円に対する自社株買い取得は今の所は25億です。でも残りは64億円もあり、何処かで最低で25億~50億円程度の自社株買いを実施するのでしょう。そうでないと…TOBを掛けられ、またヘッジファンドに狙われます。

安定的収益の基本は…AUM残高

今日はケネディクスといちごHDを比較して、ROEの考え方を説明しています。経営方針の違いなど…経営者の考え方で未来の利益は大きく変わります。基本的にベース利益は積み上げ式なので、毎年積み上がって行きます。ケネディクスは6年後の2025年にAUM残高を4兆円に増やす計画ですから、必然的に右肩上がりの株価形成になります。

今の時代は1000億円投資をすれば…10%の鞘が簡単に抜ける時代です。開発には2年から3年掛かり、経済環境が激変する可能性がありますが、日本は既に名目時代に政策スタンスが方向転換しています。だから最低賃金の3%アップが実現し、ようやく…「可処分所得が少ない」…と文句を言われながらも、GDPの個人消費は伸び始めています。

この意味の理解を、市場参加者は、もっと深めないとなりません。やれ円高がどうのうこうの…。輸出が低迷するとか…米中貿易摩擦と言うより、GDPの6割近い消費が、ようやく伸び始めているのです。

時代が積極的に変わっており、企業の内部留保が積み上がっているから、設備投資はなかなか落ちないのです。むしろ伸びています。この先が見通せない時期なのに…あり得ない現象が、何故、起こるか? その背景を十分理解しないとなりません。特にメディアの人達です。自分でデータを調べないから内部留保の残高水準も分からないのです。

此処に…最近の伊藤忠とデサントなどの問題の流れを組み合わせて…時代の考察をしないとなりません。何故、ケネディクスの宮島さんが株主還元を強めているか? 所詮は、雇われ社長なのです。ヘッジファンドが資金力で、いつでもTOBをかけることが出来ます。だって1000億円足らずで…支配不動産が2兆円だから…やはり魅力的な存在です。

たまたまエリオットは、目先資金だったから…株を引き取るからの提案を受け、売って本格的な買収にならなかったのでしょう。おそらく、シンガポールの大株主は、ケネディクス側の人間でしょう。でも彼らも金利が掛かるお金で…収益利回りが問題になります。だから企業価値をあげないと…再び、買収話が起ります。

だから宮島さんは、毎年、自社株買いを積極化させたのでしょう。そうして配当性向も上げてきます。これが普通の日本の市場環境ですよ。先ほどのデサントやアスクルの緊張感がある市場経済に変化しているのです。

FRBのストレステスト、銀行などの持ち合い株解消の流れ…世界基準のROEの流れが日本に定着しつつあるので…株価が2万円を割れて16000円? 何を寝ぼけたレポートを書くのでしょう? ぜんぜん、時代変化を理解していません。

良いですか…我々は賢い投資家を目指しています。まもなく…名目時代が確立されるのですよ。この意味をよく考える必要があります。今は駄目ですが…それは目先の話です。

セグメント情報

もうアベノミクスが口火を切った、大きな時代の変動は止まりません。ケネディクスの安定的なアセットマネージメント事業からの収益は99億円の予想で…しかも毎年10%程度の伸びが続きます。PERが30倍でも安く感じます。だって、ここに不動産の投資事業の収益は99億円も増えるのです。

今日はROEの考え方と時代背景を加味しながら…具体事例としてケネディクスの決算を見ました。これからの時代はこの株主還元比率が当たり前なのです。

何故、携帯電話のソフトバンクがこれまで一度も上回ることがなかった公募価格1500円を抜けて来たか? この背景には高い配当利回りがあります。携帯電話会社などの成長力が落ちている会社の利益は、潜在成長率が低いので、再投資などせずに株主還元をすべきです。

2万円が、日本株の下値の岩盤である…と証明をしているような現象です。GDPの結果と言い…「市場の整合性」は、様々な未来を語ってくれます。

これから1週遅れの会員向けレポートを書きますから…会員の方は明日にでも、お読みください。たぶん、アップは午前様かな?



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